
Female Gaze(女性のまなざし)
Photographer
Joanna Madloch
Country
United States
Description
私はソ連占領下のポーランドで育ちました。独裁政権が市民に課した数々の制約の中で、今でも鮮明に覚えているのは、カメラに大きく×印が描かれた「撮影禁止」の標識です。踏切、両親が働いていた工場の門、さらには学校の近くにまで、それらは至るところにありました。私はいつも、小さなカメラという機械が、なぜこれほどまでに権力者たちを恐れさせる力を持っているのか、不思議に思っていました。
その答えを知ったのは、初めて小さな「Smena(ロシア語で“変化”を意味する)」のファインダーを覗いたときでした。小さなフレーム越しに見た世界は、それまでとはまったく違って見えました。より現実的でありながら、同時に魔法のようでもあったのです。その瞬間から、私は写真に魅了されました。
長い間、自分のカメラを持つことはできませんでしたが、私は両手で世界を切り取り、心の中で写真を撮る練習を続けました。
いま、カメラを手にした私は、自らを特別な力を持つフラヌール(都市の遊歩者)だと考えています。神話に登場するトリックスターのように、異なる世界のあいだを行き来し、視覚的な連想を見つけ出し、新たな意味のつながりを生み出していきます。
私の小さなライカは、別の現実へと通じるポータルです。絞りが開くと現実同士を隔てる扉も開き、境界は曖昧になり、時間と空間の連続性さえ意味を失います。シャッターを切るたび、私はそうした現象が目に見えるかたちとなって現れる瞬間を捉えています。
私の写真は、人類が太古から語り継いできた物語、そして神話という集合的な記憶とのつながりへのオマージュでもあります。
Biography
ジョアンナ・マドロックは、アメリカ・ニュージャージー州を拠点に活動する写真家、作家、そして研究者です。人文学の博士号を取得し、International Center of Photography(ICP) および Penumbra Foundation で写真を学びました。
これまでに30本を超える学術論文を発表し、詩人ジョセフ・ブロツキーに関する著書も執筆しています。現在は、写真と文学の交差領域を研究テーマとし、世界文学に描かれる「写真家のイメージ」をテーマにした書籍の執筆に取り組んでいます。